STORY

「写真はドキュメンタリー」真実を伝える仕事にやりがいを持つ

「気がついたら写真のことが大好きになっていました」と、おおらかな表情で話してくれた柳澤遥さん、30歳。子どもの写真を撮ることを専門としている彼女は、「ドキュメンタリー」であることが写真の魅力だと話している。真実を切り取る写真の素晴らしさを知っている彼女に、フォトグラファーという仕事の魅力を聞いた。

「じっくりと時間をかけて…」カメラと過ごす時間に育んだ「好き」の気持ち

Qカメラとの出会いについて教えてください。

中学の入学祝いにオレンジ色のコンパクトデジタルカメラを買ってもらったことがきっかけです。

と言っても、写真に興味があったとか、カメラに興味があったというわけではなくて…

iPodやMDウォークマンなども流行っていた頃だったので、大人が持っているようなものを持ってみたいなという興味からでした。

Qおもちゃではなく、大人と同じものを持ちたくなる年頃ですもんね。

そうなんです‼︎ 小学生の頃は、修学旅行などカメラが必要な時は「使い捨てのフィルムカメラ」を使っていましたが、デジカメを持つようになれば、気軽に持ち歩いて友だちと写真を撮れるのでワクワクしたことを覚えています。

いつもカバンの中にカメラとMDウォークマンを入れて出かけていました。

Q気づいたら写真を好きになっていたということですか?

何か特別な出来事があって情熱的に好きになったというよりも、ゆっくりじわじわと時間をかけて好きになったという感じです。

気づいたら、いつもカメラと一緒にいて、写真を撮ることで自分と向き合う時間を作っていたように思います。

というのも、高校生の時、部活を頑張る予定が、1年で辞める結果になってしまったんです。このままじゃダメだという気持ちもあったし、これからどうしようかなと、高校生なりの焦りや悩みもあって…そんな自分と向き合う時間を作りたかったんです。

特に、早朝の通学路で撮る朝の風景は最高でした。

朝の通学時間は誰でもバタバタとするものだと思いますが、私は自転車から降りて写真を撮っていました。通学路にある川沿いの公園の木々に朝日がゆっくりと入るんですが、その木漏れ日の美しさに心を奪われました。

放課後では気づけない朝だけの魅力、その瞬間を残したいと思って写真を撮っていたんです。

Q素敵な朝の時間ですね‼︎

とは言っても、登校がギリギリになってしまうこともありましたが(笑)

そういった時間を過ごすことで、「将来どうしようかな?」と考える時間を持つこともできたので、大学へ進学するならば、興味を持ったことを深く学べる環境に進もうと考えるようになりました。そう考えると私にはカメラしかないと思ったので、写真学科のある大学へ進学することにしました。

Q大学進学後、フォトグラファーを目指したということですね。

写真と関係のない仕事をするなんて考えられなかったので、大学卒業後は子ども専門の写真スタジオに入社しました。5年間、子ども専門のフォトグラファーとして経験を積みましたが、撮れる写真の幅を広げたいと思ったので、2020年からフリーランスでフォトグラファーをしています。

今でも忘れません。

大学を卒業する時に、両親に手紙を書いたんです。

高校時代に部活を辞めたり、やりたいことが見つからなかったり、両親には心配をかけることも多かったのですが、両親は何も言わずに見守ってくれていました。何も言わないけれど、死ぬほど心配しているだろうなと思ったので、「自分のやりたいことを仕事にして頑張って生きていきたい」という気持ちを手紙にしました。

父親もフリーランスでイラストを描く仕事をしているので、子どもの頃から、好きなことを仕事にしている父の背中を見て育ちました。こういう働き方もあるということを誰よりも理解してくれているのが父だと思います。やりたいことを見つけて頑張っていることを喜んでくれていると思います。

子どもたちの世界観の中で撮る「ドキュメンタリー写真」の魅力

Qやりたいことが見つかるまで見守ってくださったご両親、素敵ですね。柳澤さんの考える写真の魅力を教えてください。

写真には、その場で起こったことをありのまま伝えるという「ドキュメンタリー」の要素があるので、フォトグラファーの目で見たものを他人に見せることができます。そして、写真を見た人が「この世界のどこかに実在するものなんだ」とか「これは実際に起こったことなんだ」と思えることが、写真の魅力だと思います。

私は昔から、自分の見たもの、感じたものを「他の人に共有したい‼︎」というような欲があって。子どもの頃から、「お母さん、これ見て‼︎」という感じで、自分が見ているものを身近な人に見て欲しいという気持ちが強かったんです。

自分の見たものを、そのまま伝えることができるってすごいことですよね。

Qその場で実際に起こっている事が伝えられる魅力ということですね。

そういう意味では、スクールフォトというのは、ドキュメンタリー写真の極みと言っても過言ではありません。そこがスクールフォトの魅力でもあり、難しいところでもあるなと感じています。

Qスクールフォトと子どもスタジオの写真とでは何が違いますか?

子どもの写真を撮ってきたので、経験を活かせるかもしれないと思って始めたスクールフォトですが、スタジオ写真と比べると違いもたくさんありました。

一番大きな違いが「世界観」です。スタジオ写真は、大人が作り出す世界の中で演出します。それとは違って、スクールフォトというのは、子どもたちの世界にお邪魔しているという感覚なのです。作られた世界観ではなく、その場で起こることを撮るというシンプルなものだからこそ、ドキュメンタリーチックで面白いなと思います。

Q子どもたちの世界観の中で写真を撮るということで、撮影する時に気をつけていることなどはありますか?

スタジオ写真ではある程度予測してイメージしたものを撮れますが、スクールフォトはそうはいきません。目の前で起こっていることしか撮れないという難しさがあるので、こういう笑顔が撮りたいなとか、こんなことしてくれたらいいのにと思っても撮れないものです。

だからこそ、予測しすぎないように意識しています。

「こういうのを撮りたいから、ここで待っていよう」とか、そればかりを考えていると撮り逃すものも増えてしまうので、色々な視点を持つようにしています。たとえ目の前を撮影していたとしても、別のところにまで意識をしながら撮影しています。

それから、ある程度、存在を消すということも意識しています。フォトグラファーが行くと園児は喜んでくれますが、気にされないくらいの存在になって、空気に馴染むということが大切だなと思っています。

Q先生とのコミュニケーションで気をつけていることはありますか?

撮影の日だからといって先生が意気込んでしまうと普段通りの保育にならないので、先生たちとの距離感も気をつけています。お互いに意識しすぎない関係というのが大事かなと思います。

そうは言っても、園によって集団生活の雰囲気や世界観が違いますから、先生の雰囲気でその世界観を感じ取るのもフォトグラファーのスキルです。

保育内容をしっかり観察していると、先生が保護者に見せたいと思っているシーンなども分かってくるので、「これだな」というシーンを撮ることができます。

Q園ごとの雰囲気や世界観の違いなどもフォトグラファーが理解しなければいけないということですね。

ただし、スクールフォトには色々な会社があるので、会社によって現場で求めている写真が違うなという印象です。リンクエイジは、「自然な姿」を大切にしているので、保護者の知らない子どもたちの表情、行動などをドキュメンタリーとして撮ってあげたいというところに共感しました。

ですから、各園の事前情報なんかは、とても細かなところまで書かれているので驚きます。園側の意向などもきちんと明記されているので、どんな写真を撮らないで欲しいと思っていて、どんなことを大切にしている園なのかが一目瞭然です。この事前情報の細かさは、他のスクールフォトの会社と比べると間違いなくナンバーワンだと思います。

だからこそ、フォトグラファーはお客様のニーズに合った写真を撮影することができて、お客様に喜んでいただけるのだと思います。

「ありのまま」を受け入れる究極の愛の形で写真を撮る

Qリンクエイジには「全ての愛を力に変える。」というミッションがありますが、柳澤さんの考える愛とは何でしょうか。

「受け入れる力」だと思います。私は「受け入れてもらう」ことで、両親からの愛を実感してきました。どんな結果であろうと、私を見守り受け入れ続けてくれたことに感謝しています。

そう考えると、保育や教育、そして写真を撮ることも、実は全て共通していているなと感じるんです。大人の思い通りにしようとするのではなく、目の前にいる子ども自身の存在を肯定してあげることが 愛なのではないでしょうか。

スクールフォトについて考えると、「その子のありのままを撮ること」が愛に近いと思っています。

子どもって本当に可愛いんです。予想外のことをしてくるところが、何よりも可愛い。嫌なことがあったら顔に出ますし、喜怒哀楽が体全体から溢れていて、そのままの姿がとても共感できて、見ていて気持ちがいいなとも思うのです。

この気持ちは「母性」ですか?と思われるかもしれませんが、私にとっては「子ども」という生き物自体が素晴らしいなと感じていて、その魅力を撮らせてもらえることがスクールフォトグラファーの醍醐味だと思っています。

Qこれから挑戦したいことがあれば教えてください‼︎

これからも写真を撮り続けたい‼︎というのは言うまでもなく、写真の素晴らしさをたくさんの人に伝えていきたいと思っています。

「写真の素晴らしさ」と言っても、それぞれ感じるものは違うと思いますが、私が魅力だと感じている「ドキュメンタリー」としての価値を伝えていきたいです。

特に子どもたちの写真というのは、最近ではSNSの流行もあって、写真の映えが意識されがちです。映えを意識するあまり世界観を作り出して撮る写真が人気だったりしますが、そうではなくて、もっとありのままの「自然体の子どもたち」の写真に魅力を感じる人が増えるといいなと思っています。

そのためにも、私自身が撮り続けることが大事ですし、その魅力を発信して広げていきたいです。

ゆっくりと時間をかけ育んできたカメラへの愛。

辛いときも、嬉しいときも、彼女と共に歩み、
カメラは彼女の心にそっと寄り添い、励まし続けてきた。

受け入れられることの愛の深さを知っている彼女だからこそ、
彼女の撮る写真には、愛に溢れた真実が写る。

Interviewee by Haruka Yanagisawa
Instagram:yana.chan.102

Interview, Text by Miya Ando
miya_ando

Photo by RYUJI.K

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