STORY

「“母”であることが活かされるスクールフォトの世界」遅咲きのフォトグラファー

今年で56歳になる小林智子さんは、2人の子どもを育て上げたベテランの“お母さん”だ。自らを「関西のおばちゃん」と呼ぶ小林さんは、おしゃべりも大好き!その笑顔と笑い声が印象的な明るくて快活なフォトグラファーだ。

そんな彼女は、47歳で初めて自分のカメラを手にしたという異例のキャリアの持ち主でもある。フォトグラファーとしては遅咲きかもしれない。それでも、「スクールフォトグラファー」としての使命と誇りを持ち、“母”であることが活かせる最高の仕事だと話す。スクールフォトグラファーとして着実にキャリアを築いてきた小林さんが「特別な想い」を語ってくれた。

「写真を撮られるのは大嫌いだった」でも「撮りたい」と思えたのは、
亡き父との思い出があったから

Q小林さんとカメラとの出会いはいつでしょうか。

私と写真との出会いは、母のお腹にいた頃にさかのぼります。母のお腹も大きくなってきたある日、父がカメラを買ってきたそうです。「お腹にいる頃から写真を残してあげたい」と、生まれる前から私の姿を撮り続けてくれていたようです。今で言う“マタニティーフォト”みたいなものですね。おかげで、小さな頃から写真をたくさん撮ってもらいましたので、写真はとても身近なものだったと思います。

Q昔から写真を撮られるのが好きだったんですか?

父には写真を撮ってもらっていましたが、私自身は、写真を撮られるのが苦手で、学校の集合写真も大嫌いでしたし、修学旅行などの写真は撮影されないように逃げていた記憶があります。

でも、ある時、娘から「お母さんの中学生の頃の写真を見せて」と言われて、私には、見せられるような学校写真がほとんどなかったので、「ちゃんと残しておくべきだったな…」と思ったんです。そんなこともあり、私も父のように「子どもの成長を写真に残していこう」と、子どもたちの学校行事などには、必ずカメラを持って行くようになりました。

Qお父様の影響で「撮ること」を始めたんですね。

父は10年ほど前に他界しました。父は “地図に残る仕事”をしていましたので、色々なところに父が生きてきた証が残っています。父が亡くなったことをきっかけに、私も「生きてきた証を残したい」と強く思うようになり、写真を撮って誰かの人生の瞬間を残すお手伝いができればいいなと、独学でカメラの勉強を始めました。

「オカン、いけるで‼︎」デビューは突然に⁉︎
フォトグラファー小林智子が誕生した瞬間

Q“お母さん”としてお子さんを撮り続けてきた小林さんが、本格的に“フォトグラファー”を目指したのはなぜですか?

独学でカメラの勉強を始めたのは、47歳の時。初めて本格的なマイカメラを持ちました。フォトグラファーとしては、人より遅いスタートだったと思います。

それまでの私はというと、短大を卒業後に銀行に就職、その後、結婚を機に退職して子育てに専念するという、どこにでもいる“お母さん”でした。娘が高校を卒業した後は、子育てが少し落ち着いてきたので、短大の頃に取得した保育士などの免許が活かせると良いなという軽い気持ちで、写真スタジオの仕事をはじめました。そこで、人生の節目に撮る「記念写真」の魅力に出会うんです。その後、より専門的に「特別な日」の撮影を勉強したいと思い、ブライダルや七五三の撮影のお手伝いをさせてもらうことにしました。カメラの勉強を始めたのもこの頃です。

Qはじめからフォトグラファーとしてお仕事していたわけではないんですね!?フォトグラファーとしてデビューできた時はどんなお気持ちでしたか?

そうですね。お手伝いといっても、はじめは写真データやアルバムをお客様におすすめするような事務的なお仕事ばかりでした。自分でも、この歳からフォトグラファーは無理だろうという気持ちもあったと思います。

でもある日、大切な撮影日当日にフォトグラファーが来られなくなるという事態が生じました。神様のいたずらだったのかもしれませんね。そこで初めて“フォトグラファー”としてシャッターを押すことになったのです。お手伝いをしながら、カメラの技術を学んでいたので、見様見真似でなんとか撮影を終えて、お客様に写真をお見せすることができました。喜んでいただけるか不安でしたが、写真を見たお客様の喜ぶ姿に安心したことを覚えています。それこそがフォトグラファーとしてのスタートでもあり、フォトグラファーとして初めて喜びを感じた瞬間だったと思います。当時お世話になっていた撮影会社の社長にも「オカン、いけるで‼︎」と背中を押していただき、その後は、日本最大級のフォトコンテストで金賞をいただくなど、撮影者としてのやりがいを感じるようになりました。

流れゆく時間を 神様から唯一 止めて残すことを許された仕事‼︎
だから私は、「一瞬」を撮り逃さない

Qフォトグラファーデビューが突然の出来事だったとは、驚きました!そこからスクールフォトグラファーとして働くようになったのはなぜですか?

七五三などの「特別な日」の撮影をしていると、いろんなお子さんに出会います。カチカチに緊張している子、上手に笑えない子、それはもう様々です。そんなお子さんたちを見ていると、「普段はどんな風に笑うのかな?」とか、気になるようになって。お子さんたちが自然体でいられる「なんでもない日常」も撮ってあげたいなと思うようになったんです。そんな思いがきっかけとなって、スクールフォトの現場に飛び込みました。そうしたら、子どもたちの一瞬一瞬を撮る魅力にすっかり取りつかれてしまいました。

今は和装婚礼や七五三の撮影も続けながら、リンクエイジさんにお世話になってスクール撮影をしています。

Qこれまで記念撮影をメインにされてきたということで、スクール撮影で難しいなと感じることはありませんか?

ありますよ!私は、いろんな撮影分野の中で、スクールフォトが一番難しいと思っています。婚礼や七五三などの「特別な日」の撮影は、ある程度作り込んで撮影をするので、あらかじめ「こう撮ろう」と決められますが、日常を撮るということは、そういう作り込みができません。あくまでも自然体ですから、子どもたちを止めることができないので、それが難しいですね。だからこそ、一瞬一瞬を撮り逃さない撮影の技術をこれからも磨き続けていきたいと思っています。

  

Q一瞬を撮り逃さない。素敵です。スクール撮影の “やりがい”を教えてください。

スクール撮影が終わると、心が浄化されるんです。子どもたちって本当にキラキラしていて純粋ですよね。先生達も一生懸命。みなさん素敵な表情で保育されていますし、その普段のなんでもない様子を保護者の皆さんに伝えたいと思っています。保護者の気持ちになり、目になり、私がカメラで捉えた瞬間を残してあげたいんです。

だからこそ、お子さんたちの成長が見えたときは、人一倍嬉しいですし、またその瞬間を残せることに喜びを感じます。

Q何気ない日常の写真に想いをこめて撮影してされているんですね。

そうなんです。フォトグラファーの仕事は、神様から唯一、流れゆく時間を止めて残すことを許された仕事だと思っています。特別な日の写真は言うまでもないですが、なんでもない日常の写真も、お子さんにとって大切な宝物になります。その子の人生の「生きてきた証」になるんです。きっと、そのお子さんが歳を重ねて人生を終えた後も「おじいちゃんもこんな顔をしてザリガニを取って遊んでいたんだね」とか「おばあちゃんの子どもの頃の顔、自分にそっくりだね」とか、次の世代、また次の世代へと、思い出を語り継いでもらえる。そんな存在になると思うと、何気ない1枚も大事に撮りたいと思えます。

「次の世代の子育てを応援したい‼︎」
“母親”である私にしか撮れない写真があると信じて

Q“母親”としての経験が活かされるなと思うこともありますか?

それこそが私の強みです。私も母親として、後悔や不安を抱えてきました。我が子たちの写真をもっと撮ってあげたかったとか、自分の子育ては正しかったのだろうかとか不安に思うこともありました。きっと多くの保護者が同じ不安を抱いていると思います。だからこそ、保護者の皆さんに「大丈夫だよ!」と伝えてあげたいんです。

「お弁当、美味しそうに食べていたよ!」とか、「こんなこともできるようになったよ!」とか、園での日常を残してあげることで、保護者に「あなたの子育ては間違っていないよ!」と伝えてあげたい。子育ての不安に寄り添い、「心配ないよ」と伝えてあげられるような写真が撮れたらなと思っています。これは、私が“母親”だからこそ思えることだと思います。スクール撮影を通して、次の世代の子育てを応援したいと思っています。

Q小林さんご自身、子育てを乗り越えてきたからこそできるお仕事なんですね。

そう思いますよ。50代の今こそ、子育ても終えて時間もありますし、お仕事を引き受けやすいなと思っています。好きなことでお仕事させていただいているので、本当に感謝しています。子育てが落ち着いてきた方で、子どもが好き!カメラが好き!という方がいらしたら、ぜひ仲間になっていただきたいなとも思っています。

Q小林さんの世代こそ活躍できる撮影分野なのかもしれませんね。スクール撮影のお仕事で、小林さんならではの“こだわり”や“気にかけていること”はありますか?

園児に怪我をさせないとか、保育を中断しないとか、園内で撮影する上で注意することはたくさんあります。でも私が一番気にかけていることは、自分のせいで子どもたちの写真を撮ることができなかったという最悪の事態を避けなければいけないということです。

園の行事があるのに「突然フォトグラファーが来られませんでした」では許されません。健康管理にも気をつけていますが、それでも、突然倒れてしまうようなこともあると思います。だから、仕事へ向かうときは、手作りの「お願いカード」を持参しています。まずはリンクエイジさんへ連絡してほしい旨を書いていて、代わりのフォトグラファーがすぐに見つかるよう手配をお願いしています。撮影の帰り道に倒れた場合には、写真データを届けていただくようにお願いを書いています。

「ラジオMC×スクールフォトグラファー」⁉︎
夢はラジオで「スクールフォトの魅力」を伝えること

Q万が一に備えて準備されているとのこと。小林さんの仕事に対する誠実さが伝わりました。最後に、これから挑戦していきたいことについて教えてください。

リンクエイジさんと一緒に「ラジオ放送」をしたいです!最近、趣味でインターネットラジオの番組を持っているんです。これからも、たくさんの方にカメラの魅力、スクールフォトの魅力を伝えていきたいなと思っています。今後は「こんな素敵な幼稚園がありましたよ!」とか、スクールフォトグラファーだからこそ伝えられる保育現場の魅力も発信していきたいです。夢は広がりますね!

フォトグラファーとしてのスタートこそ遅かったかもしれないが、彼女の作品を見れば、その裏でどれほどの努力を重ねてきたかは一目瞭然だろう。彼女は今日も、 “母”としての優しい目で、子どもたちの一瞬を撮り続けている。

Interviewee by Tomoko Kobayashi(Team.Photo.Project)
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Interview, Text by Miya Ando
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Photo by Ami Tominaga

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