STORY

「一瞬の美しさを残したい」青の世界を知るフォトグラファー

海の世界に心を奪われたフォトグラファー、小泉圭一さん。好きなものを夢中で撮り続けてきた彼の目には、スクールフォトの世界はどう見えているのか。プロだから撮れるものを…そうこだわる小泉さんに、フォトグラファーという仕事の魅力を聞いた。

僕が夢中になったのは”海の中” きれいな青を求めて

Qカメラとの出会いについて教えてください。

カメラにどっぷりハマったな! というきっかけは、大学時代に出会った水中撮影です。ダイビングをしていたので、海中の撮影をしてみたくて挑戦しました。

海の中のブルーって独特なんです。絵の具の青では表現できないような、コバルトブルーでもない、深い青。写真にするとより美しさが際立つんです。きれいなブルーが撮れた時の感激はひとしおです。うまく撮れると、「思い通りの色だ〜」って、大喜びしていました。

Qダイビングをしながら水中撮影!! 難しそうです……

フィルムカメラの時代だったので、そう簡単には撮れませんでした。フィルムはマックスでも36枚しか撮れない時代ですから。デジタルなら、何百枚、何千枚と撮ることができますが、一回潜ると簡単にフィルム交換もできません。36枚のフィルムに何を撮るのか、そこに集中しなければいけません。

露出もフォーカスもフラッシュも全てがマニュアルなので、最初はピントも合わないし、露出もひどいものでした。特にフォーカスは自分で目測してレンズの距離計を30cmに合わせるというレトロな方法。それを水中で行うわけですから、それはもう大変でした。しかも、現像するまで撮れ高が分からないので、納得のいく写真が撮れた時の満足度は高かったです。


©Keiichi Koizumi

Qダイビングに集中するというより、撮影に集中するんですね……(笑)

基本的に、水中では撮影のことしか考えていません。夢中になりすぎて、水深25mのところでエアー(酸素)がなくなっていることに気がついたことも……。(笑)

海中に降り注ぐ太陽の光、ゆらめきや彩りある青の世界は輝いています。その世界が美しすぎて、僕は虜になりました。

Qなんてステキな世界なんでしょう。水中カメラから地上でのフォトグラファーになるまでのことを教えてください。

大学卒業後もカメラの経験が活かせる仕事に就きたいと思って、大好きな釣りや魚に関われる「釣り雑誌」の出版社に入社しました。

希望していた写真部に配属されて、撮影技術を身につけていきました。印象に残っているのは、釣り人さんの同行写真。自然相手の撮影なので、雨の日も風の日も、僕らは撮らなければならない。どれだけ早朝に出発しても、魚が釣れないことには終われないですから、釣れるまで待つんです。釣れた時には、釣り人さんも満面の笑みなので、待ったかいがあった〜と、満足度の高い写真が撮れました。

なぜでしょうね……笑。みなさん魚を手にすると自然と笑顔になるんです。楽しい現場でした!!

Q釣り写真でフォトグラファーデビューされたんですね。

自分の撮った写真が雑誌の表紙になるとうれしかったですし、やりがいもありました。ところが、徐々に紙媒体の雑誌が淘汰されてしまって……僕の勤めていた会社も例外ではありませんでした。

その後、釣り以外にも、旅やグルメ、アウトドアなどの写真も撮ってきましたが、とある写真館と出会ったことでスクールフォトを撮り始めました。スクールフォトをやりはじめると、これが意外と楽しくて(笑) どんどんハマっていきました!!

写真だから残せる一瞬を 奥の深いスクールフォトの世界

Qスクールフォトのどんなところにやりがいを感じますか??

他の分野の撮影って、予備取材してからの撮影なので、ポージングしたり、決まったものを撮影したり、じっくり撮影することができます。ところが、スクールフォトはそうはいかない。出たとこ勝負のぶっつけ本番なんです。その場の状況に応じて臨機応変に撮影していくというスタイルに新鮮さを感じました。

むしろ、スクールフォトは簡単だと思い込んでいましたから、一筋縄ではいかない感じが、奥の深い分野だなと思わされました。

Q確かに、臨機応変に撮影するというのは他の分野との違いですね。

撮影条件が刻々と変化するので、正確な速写性というのも要求されると思います。どんな瞬間にも確実に対応できているかといえば、100点満点が難しいというのも事実。毎回の撮影で、少なからず反省点もあるので、次に活かさないといけないなと思っています。

どのフォトグラファーにとっても、「反省をして次に活かす」というのは永遠に続くことなのかもしれません。

Q一筋縄ではいかない現場!! 特に難しいと感じることはありますか??

予想以上に難しいのが「集合写真」。小さな子どもたち全員を振り向かせて笑顔の写真を撮るって大変なんです。フォトグラファーによっては、カメラの近くでキャラクターのぬいぐるみを持つ人もいます。僕自身も、オーソドックスなことですが、キャラクターを忍ばせてみたり、子どもたちの心をつかめそうな言葉や声色を考えてみたり、自分なりに工夫しています。

仕事以外の時間でも、「どうしたら振り向いてくれるかな…」なんて考えながら生活しているので、キャラクターグッズや子どもたちの流行り物に目が向いてしまうことも。職業病なんじゃないかなと思うほどです(笑)

Q子どもたちを振り向かせるための工夫があるということですね。カメラが苦手なお子さんへの配慮などはありますか??

緊張していると良い表情が撮れないので、緊張がほぐれるのを待ってあげることがベストですが、時間がない時もあります。

物理的に距離をとって、望遠で撮ってみたり、他の子を撮影しながら様子を伺ったり、工夫しています。少し距離を取ると、お友達と自然に遊び始めたりするので、そういう時を狙いながら観察するようにしています。

Qスクールフォトの魅力を教えてください。

とにかく、かわいい。この一瞬のかわいさを残せるって、なんて魅力的な仕事だろうと思います。二度と同じ瞬間は訪れませんから。

これまでたくさんの人の撮影をしてきましたが、子どもの目って、本当に透き通るほど澄んでいるんです。真剣な表情も、笑顔の表情も、どんな表情をしていてもキラキラと輝いている。

例えば、走ってくる子どもの表情って、肉眼では見えないことの方が多いですよね。でも、写真で一瞬を切り取ってあげると、バーン!!と一瞬の表情が写っているんです。「こんな顔で走っていたの?」となるほど、キラキラした表情ばかり。

肉眼では一瞬で過ぎ去るものでも、カメラなら残してあげられる。それが大事な一枚になってくれるとうれしいです。

Qスクールフォトの現場で大切にしていることがあれば教えてください。

保護者の目線で「この写真が欲しい!」と思ってもらえるようなものを撮影できるように心がけています。

できることなら一人一人とじっくり向き合って撮影してあげたいのですが、限られた時間の中で撮影するとなると、「これ!!」という瞬間を撮り逃さないようにするのは至難の業。ずっと観察しながら、空気を読まないといけないんです。

経験を積む中で、あっちを見ながらこっちも見るということができるようになってくるので、とっさの判断でも動けるようにしています。そういう意味では、体力がいる現場かもしれないですね。水中の撮影も体力勝負なので、同世代と比べると体力がある方なのかもしれません(笑)

Q保護者の目線で「欲しい」と思える写真を撮ることが大切ですもんね。特にどんな瞬間を大事にしていますか??

今はスマホでも簡単に写真が撮れる時代ですから、子どもたちの一番身近にいる人こそ、一番良い写真が撮れると思うんです。それでも、僕らプロが介在する価値というのは、保護者も見たことのないような瞬間を撮ること以外にありません。「こんな表情があるの??」と、驚きになるような表情をたくさん撮ってあげることが大事だなと思っています。

とはいえ、そこが一番難しいポイントなんですけどね! その瞬間のために、スクールフォトのプロたちは頑張っています。

いつか子どもたちに海の魅力を伝えたい

Qリンクエイジには「すべての愛を力に変える」というミッションがありますが、小泉さんの考える「愛」について教えてください。

愛というのは、相手を尊重して、人となりをよく見てあげることではないかなと考えています。少なくとも、僕はそういうところに愛を感じます。

子どもたちを撮影する時も同じです。親のような目線で子どもたちを見てシャッターを切ることで、多少なりとも愛が込められているのではないでしょうか。

撮影する中でも、この子らしいところ、この子のいいところ、そんな瞬間を写してあげたくて一生懸命見るんです。その瞬間を写真として残してあげることができれば、他の人が見ていないところでも、僕は見ていたよという証になるじゃないですか。きっと子どもたちにも伝わると思います。

Qこれから挑戦したいことはありますか??

大学卒業後からフォトグラファーとして働き始めて、気づけばもう40年が経とうとしています。もういい年齢ですが、僕はやりたいことがたくさんあるんです(笑)

まずは「写真集」。水中撮影は僕の生きがいですから、いつか写真集にできたらいいなと考えています。今撮りたいテーマは「半水面」。陸上と海中の水平線を真ん中に、どちらの世界も写す神秘的な写真を撮りたいと思っています。

それから……保育園や幼稚園で、子どもたちに水中の生き物についてお話できる機会があると嬉しいです。撮りためた魚や生き物の写真を見せながら、海の生き物たちの生態についてお話しするんです。きっと目をキラキラと輝かせながら聞いてくれるんじゃないかなと思っています。いつか叶えてみたいです!!

「僕は見ていたよ」という愛の証。
小泉さんが残す瞬間には、優しさが写る。

子どもたちの澄んだ瞳、青く染まった海の中、彼がのぞくファインダーの向こう側の世界は今日も美しく輝く。

Interviewee by Keiichi Koizumi

Interview, Text by Miya Ando
miya_ando

Photo by Tomoshi Hasegawa

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